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東京高等裁判所 昭和58年(う)32号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大越譲作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官緒方重威作成名義の答弁書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一点

所論は、要するに、速度違反認知カード中の測定記録写真は被告人の承諾なしに撮影されたもので、違法収集証拠であるから、これを証拠として事実を認定した原判決には訴訟手続の法令違反がある、というのである。

しかしながら、本件撮影は、現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものであって、証拠保全の必要性及び緊急性が認められ、その方法も一般的に許容されて限度をこえない相当なものであったと認められるから、被告人の承諾を得なかったとしても、適法な職務執行行為であったといわなければならない(最高裁判所昭和四四年一二月二四日大法廷判決、刑集二三巻一二号一六二五頁参照)。

論旨は理由がない。

同第二点

所論は、要するに、原判決は被告人の無免許運転の所為と制限速度違反の所為を併合罪として処断したが、右両罪は一所為数罪の関係にあり、観念的競合として処断されるべきであって、原判決は法令の適用を誤っている、というのである。

しかしながら、無免許で自動車を運転中、速度違反の所為をした場合において、速度違反の所為は無免許運転の所為の継続中における一時的局所的な行為に過ぎず、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとにおいて、右両所為は社会見解上別個のものと評価すべきであって、これを一個のものとみることはできない(最高裁判所昭和五〇年五月二三日第二小法廷判決、判例時報七七七号一〇二頁参照)から、右両所為を観念的競合とせず、併合罪とした原判決には所論のような違法はない。

同第三点

所論は、要するに、原判決の量刑が不当に重い、というのである。

そこで、原裁判所が取り調べた証拠を調査し、当審における事実の取調べの結果を参酌して検討すると、本件は、昭和五二年から五三年にかけて速度違反の罪で四回罰金刑に処せられ、昭和五五年七月一〇日賭博開帳図利幇助罪により懲役八月、三年間保護観察付執行猶予に処せられた被告人が、右猶予期間内に原判示の通り無免許運転及び速度違反の罪を犯したという事案であって、犯情は芳しくなく、その刑責は軽視し難いところである。従って、所論のように、運転していた高浜義雄が胃けいれんを起したため被告人が運転を交替したものであって、運転時間も運転距離も短かかったとしても、原判決程度の量刑はやむを得ないところであって、不当に重いということはできない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新関雅夫 裁判官 下村幸雄 中野久利)

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